見慣れない男性が、長い時間、待合の椅子に座って私を待っていた。
初めての方で長い時間待っていてくださるのは、ほとんどが紹介されて来るお客サマなので、どなたのご紹介ですか?と質問をすると、彼女に私を紹介されたとの事。
お客様は、彼女も自分と結婚をしたがっているし、自分も彼女が好きで結婚を考えるのだが、どういう結婚になるのかを占ってもらいたいと言う。
質問:交際中の彼女との結婚運
天文 山火賁 之卦 山地剥 本卦 山水蒙
主爻 山天大畜 主爻 山天大畜
人文 火沢けい
地文 天風妬
天地 山風蠱
相思相愛なら気楽な占いだとりラックスして占ったが、出た答えをみて言葉につまった。
的確な言葉が見つからないので、感情のまま話すことにした。
『一体どういうつもりで、あなたの彼女は、あなたに私の占いを薦めたのでしょうね?
あなたの彼女はあなたとの結婚を望んでいませんよ。
あなたは、ほんとうに彼女があなたとの結婚を望んでいると信じているのですか?』
お客様は、悲しい瞳をしながら微笑み、黙ったまま首をかしげた。
『彼女は、あなたが経済的な能力が足りない事が不満なんですよ。あなたの仕事の能力も弱いと思っているのです。お金さえあれば良いと思う人ですから経済力の弱さがネックであなたとは結婚したくないと思っているのですよ。
でもその事を自分の口からは言えないので、私の占いからあなた自身の駄目な部分を納得してもらう目的で、あなたに私の占いに行くように勧めたようです。
彼女自身はとても仕事の出来る人で、自分の生活も豊かなものを求めているんです。
物への執着も強い人でかなり贅沢好みですから、まして一生涯に一人という配偶者になれば妥協しないで、かなりのレベルの高さを感じる相手との結婚を望んでいます。
お金に執着する人ですから、結婚できたとしても、年中あなたの収入の少なさを攻め立てます。彼女とは、結婚はできないと断言できるほどですが、万が一結婚できたとしても精神的に不幸ですからお勧めできない結婚です」
ずけずけと彼女の彼に対する冷酷な批判を告げて良いのだろうかと、悩んだが、
結婚の運勢を聞かれたのだから、後から外れたとわかるようないい加減な事も言えないと思い正直に占いに出たままを答えた。
「結婚したらどんな夫婦になって暮らしているかを知りたかったんですが
それ以前に、結婚すらできないのですね?彼女は贅沢だし理想が高い人で、お金が無いと嫌だといっていたので、僕じゃあ不足なんだろうなとは思っていましたから、わかってはいました。占いの答えを聞いて、彼女がこの占いを紹介した理由もわかりました。彼女がそういう子だって事は僕も分かっているんですが、でもそれでも好きなのです。」
男性は、沈んだ瞳をしていたが穏やかな態度だった。
これから転職もするので、収入も若干アップするしもっと彼に合う良い女性も出てくると答えたが、未練を断ち切れない重い表情をしながら帰っていった。
しかし思いを寄せる相手へのお別れ宣言のやり方として、占い師を利用するとは
斬新な方法だと思った。
もし占いで、彼女は彼を愛しているように見せないけれども、本当は凄い愛情を持っている人だし、良い結婚になると答えたら、彼の気持ちはどうなっていたのだろうか?
そして紹介した彼女はどうしただろうか?などと考えた。
占いは、外れたところで文句を言う人はめったにいないし、お客様たちも色んな占いめぐりをしているので、当たった占い外れた占いの情報を私にも聞かせてくださる。
誰も外れた事を文句も言わず、当たり前の事のように語って下さる。つまり、占いは
外れたら当たり前で、当たれば驚くほの事だと言うのが、一般的な評価のようだ。
私の友人が占い好きで、日取りなどに拘りお守りなどを集めるので、『占いなんていい加減なんだから信じるべきじゃない』という私だった。
こんな私が占いの店で雇われて働くようになり、初めて占い師の世界に入り込んだのだが、
世間の占いが結構当たっている事が見えてきた。
(それまでの私はおこがましいが自分の占いだけを信じていた)
占館の経営者が言うには、ここで働く占い師達はかなりの実力が無ければ雇ってもらえないと語るだけあり、けっこう真面目に勉強して来た人や性格も善良な占い師達を集めている。
新聞で占い師を募集して、採用できる率は一回の募集で一人いればよい方だとも言う。
ここに所属している占い師達の勉強の仕方や、占いに対しての貪欲な知識欲は、まさに占いオタクであり、自分の占いに対して情熱を持って休む事の無い向学心を持っている人も少なくない。
中には占いその物をたいして信じていないと言う知性的な占い師もいる。
そんな占いでは、どう答えるのかと興味が湧いて私は見料を支払って占ってもらった。
その方は洞察力の深い人でカウンセリングのように話していって、その人の観念からアドバイスするやり方で、第三者の立場からの冷静な考え方を見せていただけた。他者の考え方を知る事で、自分でも決断しやすくなると思ったので、占いを信じない占い師でも良いアドバイスの出来る人だった。
でも私の心は、人間の常識的発想を外れたところから来る答えに魂が動かされるので、占いにはどういう答えが出るのかやっていただきたいと頼んで、その方に易で占ってもらった。
その人の占いの解釈もやはりその人の観念でとらえていた。
自分の占いが日本で一番だと信じる占い師は多いらしい。
自称日本一の占いで勉強も人一倍している占い師は、勉強をあまりしていない実力も無い占い師のほうがお客様に人気があるのは、お客様の見る目の無さと、時期的な運気が原因だと語る。
同じお客様が二人以上の占い師から鑑定してもらうと、お互いの占いの答えを比べて検討している研究心旺盛の占い師もいる。
統計学の占いならば答えは同じで当然だが、祈って出す占いでも不思議なもので出ている答えは同じ事が多い。
かなり人気のある占い師が、『占いなんかペテンだ』というので、その人にも占ってもらった。
私の事を、とても子供想いの良いお母さんで教育熱心だと、彼女はタロットカードを一枚だけめくって言った。
私は涙がにじんできた。
「すごい、当たっているじゃない!どうして当たっているのに占いをペテンだって言うの?」
『あなたが、子供の事を占ってと言う台詞自体が子供想いの証拠でしょ。その人の質問内容と台詞が、答えをすべて見せているのよ!皆バカすぎよっ。』
「なるほど・・・」
私のリピーターのお客様で占い好きの人が、他の占い師にも占ってもらいたいと言うので、種類の異なる占術の占い師3人を紹介した。
一人の占い師は、星占いで過去の運の悪かった時期を言い当てて、今も運勢は頑張っても良くならない時期であり、お客様の性格はデリケートで優しすぎると言われた。
もう一人の占い師は、苦手な人間関係の相談で、おみやげを買っていけば相手の気持ちもやわらぐと言われ、女性に気に入ってもらえるコツをアドバイスしてもらい、その内容も詳細に話してくれた。
もう一人の占い師は、そのお客様には霊が障害をもたらしていると言い、良い方位に行く事を勧められたという。
鑑定時間は各自30分もあるので、勿論これだけの答えではないが。
何月何日の何時にどこどこへ行く事で、何歳の外資一流企業で働く身長175センチのエリートがあらわれて交際できるようになると言われたが、誰とも会わなかったと言う報告も聞きながら、そこまで詳しく断言する占いを凄いと思うのだが、外れても平然としているお客様たちも、凄いと思う。